甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは?
「甲状腺」とは、のどぼとけの下あたりにある、蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です。
小さいながらも、そこから分泌される「甲状腺ホルモン」は、全身の細胞の一つひとつに働きかけ、エネルギーの消費や新陳代謝を活発にする、非常に重要な役割を担っています。
いわば、体の「元気の源」であり、「エンジンのアクセル」のような存在です。
甲状腺機能低下症とは、この甲状腺ホルモンの分泌が何らかの原因で不足し、体全体の活動がスローダウンしてしまう状態です。
車のエンジンがかかりにくい、アクセルを踏んでもスピードが出ないようなイメージで、全身に様々な不調が現れてくるのです。
甲状腺機能低下症のセルフチェック
甲状腺機能低下症の症状は、非常に多岐にわたり、一つひとつは「よくあること」として見過ごされがちです。
以下の症状に複数当てはまる場合は、一度甲状腺の検査を考えてみてもよいかもしれません。
- とにかく疲れやすい、全身の倦怠感がとれない、気力が出ない
- 食欲はあまりないのに、なぜか体重が増える
- 顔や手足がむくみやすい(指で押しても跡が残らない、パンパンとしたむくみが特徴)
- 以前よりも寒がりになった、冬が特につらい
- 汗をかきにくくなった
- 肌が乾燥してカサカサする、髪がパサついて抜け毛が増えた
- 眉毛の外側1/3が薄くなってきた
- 便秘がちになった
- 脈がゆっくり(1分間に60回以下)になった
- 声がかすれる、しゃがれたような声になった
- 物忘れが多くなった、頭がボーっとすることが増えた
- 気分が落ち込みやすい
これらの症状は、更年期障害の症状ともよく似ているため、自己判断は禁物です。
発症する最も多い原因は?「橋本病(慢性甲状腺炎)」
日本における甲状腺機能低下症の原因として最も多いのが、「橋本病(はしもとびょう)」という病気です。
橋本病は、本来、体をウイルスや細菌などの外敵から守るはずの「免疫」システムが、何らかの理由で間違って自分自身の甲状腺を「敵」とみなして攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種です。
攻撃を受けた甲状腺では慢性的な炎症が続き、徐々に組織が破壊され、ホルモンを十分に作れなくなります。
この橋本病は、特に成人女性に多く、その頻度は10人に1人とも言われるほど、非常にありふれた病気です。
ご自身が橋本病であっても、甲状腺機能が正常に保たれている方も大勢います。
原因不明の不調でお悩みなら、一度当院へご相談ください。
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当院での診断と治療
診断は、「血液検査」
甲状腺機能低下症の診断は、採血で行う血液検査でほぼ確定できます。
血液中の甲状腺ホルモン(FT4, FT3)の量と、脳から甲状腺へ「もっとホルモンを出しなさい!」と指令を送る甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を調べることで、あなたの甲状腺が正常に働いているかが分かります。
また、橋本病が原因かどうかを調べるための自己抗体(抗TPO抗体など)も同時に測定します。
治療は「足りないホルモンを補う」
治療の基本は、不足している甲状腺ホルモンそのものである「レボチロキシン(商品名:チラーヂンS)」というお薬を、1日1回、決まった量を服用するだけ、という極めてシンプルです。
これは、もともと自分の体で作られるはずのホルモンを「補充」する治療なので、医師が血液検査の結果を見ながら適切な量に調整している限り、副作用の心配はほとんどなく、安全に長期間続けていただけます。
服用を開始すると、数週間から数ヶ月かけて、つらかっただるさやむくみといった諸症状が嘘のように改善し、以前の元気を取り戻していく方がほとんどです。
治療や食事に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 薬は一生飲み続けないといけませんか?
橋本病が原因の場合、甲状腺の機能が自然に回復することはまれなため、多くの場合、お薬は生涯にわたって飲み続けていただく必要があります。
しかし、1日1回のお薬で健康な人と変わらない生活を送ることができます。
Q2. 食事で気をつけることはありますか?
甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素を多く含む食品(昆布、ひじき、わかめなど)の「過剰摂取」は、甲状腺機能に影響を与えることがあるため、日常的に大量に食べるのは控えましょう。
お味噌汁や出汁など、通常の食事に含まれる量であれば全く問題ありません。
Q3. 妊娠や出産はできますか?
はい、全く問題ありません。
むしろ、妊娠中は胎児の成長のために甲状腺ホルモンがより多く必要となるため、お薬を適切に調整し、ホルモン値を正常に保つことが、安全な妊娠・出産のために非常に重要です。
患者さんへ
原因不明の倦怠感、むくみ、体重増加、気力の低下は「甲状腺機能低下症」という病気が原因かもしれません。
その可能性は、簡単な血液検査で分かります。
治療は内服薬を継続することで改善することがほとんどです。
気になる症状があれば、一度御相談ください。
